浮気の慰謝料を支払う約束をしたのに、数か月後に支払いが止まった。離婚時に養育費を取り決めたのに、相手が払わなくなった——こうした「約束の不履行」は非常に多く発生しています。

これを防ぐ最も確実な方法が公正証書です。公正証書にしておけば、相手が支払いを怠った場合に裁判なしで強制執行(給与差し押さえ等)が可能になります。

この記事でわかること: 公正証書とは何か、浮気・離婚の公正証書に書くべき項目、公証役場での作成手続きと必要書類、費用の目安、強制執行認諾文言の重要性を解説します。

公正証書とは

公正証書とは公証人が作成する公文書で、最大のメリットは「強制執行認諾文言」を入れることで、相手が支払いを怠った場合に裁判なしで強制執行(給与差し押さえ等)が可能になる点です。

公文書としての法的効力

公正証書とは、公証人(法務大臣が任命する公務員)が作成する公文書です。当事者間で作成する私的な示談書や合意書とは異なり、公文書としての強い法的効力を持ちます。

公正証書の最大のメリットは「執行力」です。金銭の支払いに関する公正証書に「強制執行認諾文言」(支払いを怠った場合は強制執行を受けても異議がない旨の記載)が入っていれば、裁判を経ずに直ちに強制執行の手続きが取れます。

示談書・合意書との違い

当事者間で作成した示談書や合意書は、それ自体に執行力がありません。相手が約束を守らなかった場合、まず裁判を起こして勝訴判決を得なければ強制執行ができません。裁判には6か月〜1年半の期間と44〜79万円の費用がかかります。

公正証書にしておけば、この裁判の手間と費用をすべて省略して、すぐに強制執行に移れます。特に養育費のように長期間にわたって支払いが続くものは、公正証書にする実益が非常に大きいです。

浮気・離婚の公正証書に書くべき7つの項目

1. 離婚の合意

協議離婚する旨と、離婚届の提出時期を記載します。どちらが届出人になるかも明記しておくと、手続きがスムーズです。

2. 慰謝料

慰謝料の金額、支払い方法(一括・分割)、支払い期限を記載します。分割の場合は毎月の支払額と支払日、振込先口座を明記します。

重要: 分割払いの場合は「期限の利益喪失条項」を入れることが必須です。これは「2回以上滞納した場合は残額を一括で支払う義務が生じる」という条項で、支払いの遅延を抑止する効果があります。

3. 財産分与

分与する財産の内容(不動産・預貯金・車・保険など)と、それぞれの帰属を記載します。不動産の場合は所在地・地番・登記簿上の表示を正確に記載する必要があります。

4. 養育費

子どもの養育費の月額、支払い期間(通常は子どもが成人するまで、または大学卒業まで)、支払日、振込先口座を記載します。

養育費は長期間にわたるため、物価変動や収入の変化に対応できるよう「事情変更条項」を入れることも検討してください。ただし、あまりに漠然とした変更条項は紛争の種になるため、弁護士と相談して適切な文言にすることが重要です。

5. 親権・面会交流

親権者の指定と、非親権者と子どもの面会交流の方法(頻度・場所・時間・連絡方法)を記載します。面会交流の取り決めは、あまり細かく決めすぎると柔軟な対応ができなくなるため、大枠を定めて「詳細は都度協議する」とするケースも多いです。

6. 接触禁止条項(不貞相手との関係断絶)

浮気が原因の離婚では、配偶者と浮気相手の接触禁止を盛り込むことがあります。違反した場合のペナルティ(違約金)を設定しておくことで、再発防止の効果があります。

7. 清算条項・守秘義務

「本公正証書に定めるもののほか、互いに何らの債権債務がないことを確認する」という清算条項と、公正証書の内容を第三者に口外しないという守秘義務条項を入れます。

強制執行認諾文言の重要性

公正証書の価値を決めるのが「強制執行認諾文言」です。この一文があれば裁判なしで強制執行が可能になり、なければ単なる証拠にとどまります。公正証書作成時には必ずこの文言の記載を確認してください。

この一文が公正証書の価値を決める

公正証書を作成する際に最も重要なのが、**「強制執行認諾文言」**の記載です。これは「本証書に記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した」という文言で、この記載があることで裁判なしの強制執行が可能になります。

この文言がない公正証書は、単なる「公文書としての証拠」にすぎず、強制執行はできません。必ず記載するよう公証人に依頼してください(通常は公証人の方から確認があります)。

強制執行で差し押さえられるもの

強制執行によって差し押さえ可能な財産は、給与(手取りの4分の1まで。養育費の場合は2分の1まで)、預貯金口座、不動産、自動車、有価証券などです。

公証役場での作成手続き

ステップ1:合意内容を確定する

まず、当事者間で離婚条件(慰謝料・財産分与・養育費など)について合意します。弁護士に依頼している場合は、弁護士が合意内容を整理した書面を作成します。

ステップ2:公証役場に予約する

全国に約300か所ある公証役場のいずれかに連絡し、面談の予約を取ります。最寄りの公証役場でなくても構いません。

2025年10月からは、一定の条件を満たす場合にオンライン(リモート)での公正証書作成も可能になりました。

ステップ3:必要書類を準備する

必要書類は、本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)、戸籍謄本、合意内容をまとめた書面、不動産がある場合は登記事項証明書、年金分割がある場合は年金手帳、などです。

ステップ4:公証人との打ち合わせ

公証人が合意内容を確認し、法的に問題がないか審査します。記載内容の修正が求められる場合もあります。打ち合わせは通常1〜2回です。

ステップ5:公正証書の作成

当事者双方(または代理人)が公証役場に出頭し、公証人が内容を読み上げ、当事者が確認の上で署名・押印します。作成された公正証書の正本が原告(債権者)に、謄本が被告(債務者)にそれぞれ交付されます。

費用の目安

公証人手数料

公証人手数料は「公証人手数料令」で全国一律に定められています。

慰謝料100万円以下の場合は5,000円、100万円超200万円以下で7,000円、200万円超500万円以下で11,000円、500万円超1,000万円以下で17,000円です。

養育費は支払い総額で手数料が算定されますが、10年分の総額が上限となります。月5万円の養育費を18歳まで(12年間)支払う場合、10年分の600万円で算定され、手数料は11,000円です。

慰謝料と養育費はそれぞれ別の法律行為として手数料がかかるため、合算されます。

弁護士に依頼する場合の費用

公正証書の原案作成を弁護士に依頼する場合、5〜15万円程度の報酬がかかります。離婚交渉全体を弁護士に依頼している場合は、公正証書の作成費用が含まれているケースが多いです。

総額の目安

公証人手数料と弁護士費用を合わせて、2〜20万円程度が一般的です。裁判費用(44〜79万円)と比べると格段に安く、費用対効果は非常に高いです。

よくある質問

公正証書は離婚後でも作成できますか?

はい、離婚後でも作成できます。ただし、離婚後に元配偶者が公正証書の作成に協力してくれるとは限りません。離婚前に合意が成立している段階で公正証書にしておくのが最も確実です。

相手が公証役場に来てくれない場合はどうすればいいですか?

公正証書の作成には原則として当事者双方の出頭が必要ですが、弁護士に委任状を渡して代理出頭してもらうことが可能です。それでも相手が一切協力しない場合は、家庭裁判所の調停で取り決めを行い、調停調書(これも執行力を持つ)で代替することができます。

公正証書の内容は後から変更できますか?

当事者双方が合意すれば、新たな公正証書を作成して内容を変更できます。ただし、一方的な変更はできません。相手が変更に応じない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。

浮気の示談書(離婚しないケース)も公正証書にできますか?

はい、離婚しないで浮気相手と示談をする場合も、慰謝料の支払いに関する示談書を公正証書にすることが可能です。分割払いの場合は特に、公正証書にしておくことをおすすめします。

養育費の公正証書で「子どもが大学卒業まで」と書けますか?

書けます。養育費の終期を「満22歳に達した後の最初の3月まで」などと具体的に定めることで、大学卒業までの支払いを確保できます。ただし、子どもが大学に進学しなかった場合の対応も合わせて記載しておくとトラブルを防げます。

まとめ:公正証書は「約束を守らせる最強のツール」

浮気の慰謝料や離婚条件を取り決めたら、公正証書にしておくことを強くおすすめします。費用は2〜20万円程度で、裁判なしの強制執行という強力な効力が得られます。

特に養育費のように長期間にわたる支払いや、慰謝料の分割払いでは、公正証書があるかないかで回収の確実性が全く異なります。「口約束だけで済ませてしまった」と後悔する前に、弁護士に相談して公正証書の作成を進めてください。

出典:

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